研究開発R&D
成人用肺機能分析装置
昼間の活動中にひどい眠気にたびたび襲われるようであれば、睡眠時無呼吸症候群(略称:SAS)を患っているかもしれません。SASの患者は400万人とも1千万人とも言われています※1。運転中の居眠りが交通事故の原因になるなど、社会問題にもなっています。しかし、睡眠中のことですから、本人は気づかず、受診率はわずか数%です。現在のSAS診断は終夜睡眠ポリグラフ(PSG)が標準的な検査法となっています。この検査は、様々なセンサーをからだ中に取り付けて一泊入院で行いますので、高齢者や、ほかの疾患を持っている患者には過酷であり、検査したくてもできないケースが少なくありません。
厚生労働省の統計によると、慢性閉塞性肺疾患(COPD)による死亡者は、16,000人あまりであり※2、年々増加しています。COPDはタバコなどの刺激で肺胞が破壊される病気で、呼吸しにくくなります。現在のCOPDの診断には、呼吸機能検査(スパイロメトリー)が標準的に行われています。この検査は、マウスピースをくわえ、「思い切り吸う」「一気に吐く」などの指示どおりの呼吸をするものですが、被検者にとってそのような呼吸が難しい場合には正しく評価することができません。また、肺炎患者や骨折している人、結核など人に感染する病気を持っている人には禁忌です※3。
本研究は、赤外線レーザと画像処理を用いて呼吸運動を検出するという新しい原理を用いて呼吸機能検査を行う装置を実用化するものです。赤外半導体レーザとレーザビーム分岐素子(FG素など) を用いて多数個(1,000~1,500個程度)の赤外線輝点アレイを被験者の胸腹部に投影し、 近傍に設置した固体撮像素子で 撮影した輝点画像を演算処理することによって被験者の呼吸波形を取得します。その呼吸波形を分析することによって、呼吸疾患や呼吸機能の評価(診断)を行うことができる臨床機器の実用化をめざしています。非接触・無侵襲ですから、被験者は普通に眠り、普通に呼吸することができます。将来は、呼吸パターンを自動分析し、各種疾患の早期発見の可能性を広げていきます。
※1 特定非営利活動法人 睡眠時無呼吸症候群ネットワークによる
http://sas-j.org/substance/
※2 厚生労働省 平成25年人口動態統計月報年計(概数)の概況 第6表
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai13/dl/h6.pdf
※3 一般財団法人 日本健康増進財団による
http://www.e-kenkou21.or.jp/guidance/guidance02/guidance02_set14/guidance02_55
※本研究は、 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 平成24年度 研究開発費補助金(ベンチャー企業への実用化助成事業)に採択されました。